《講評》

中華風ゲーム世界の悪役に転生してしまった主人公が、10年後に待ち受ける破滅エンドを回避するために奮闘する本作。主人公はありとあらゆる方法で運命を変えようとしますが、一筋縄ではいかず……何かひとつを解決したと思ったらまた新たな謎が増え、の繰り返しで、予測できないストーリーには読む手が止まりませんでした。
主人公が破滅回避のために様々な行動を起こしていくうちに、いつの間にか最強の武術家になっていたり、周囲の人々に信頼され愛されるようになったり……意図しないところでゲームのシナリオに大きな影響を与えていく様子は爽快です。
主人公だけでなく登場キャラクターたちも個性豊かで、皆さんもきっとお気に入りのキャラクターが見つかるはずです。もちろん、主人のことが大好きな可愛らしいくてかっこいいヒロインたちの活躍からも目が離せません。
また、ストーリーとキャラクターに加えて、中華風の世界観を彩るユニークなスキルや、スキルを活かした戦闘描写も本作の見どころのひとつだと思います。丁寧に練られたストーリーと、中華風のオリジナリティある世界観・設定のなかで生き生きと動くキャラクターたちがとても魅力的で、ぜひおすすめしたい一作です。

《講評》

無職になった主人公田中ハルト（24）が次の就職先を見つけるまでの間、ダンジョンに潜る探索者となりモンスターやワルたちと対峙。その過程で人助けをしたり、思わぬところから感謝されたりするローファンタジー作品。
淡々とした語り口でスタートする主人公のダンジョンでの日々の行動がやがて大きな渦となり日本中を巻き込んでいくのですが、彼は自身の特異性や能力、やっていることの凄まじさについて自覚がないため、良い意味で周囲の影響を受けませんし、万人から好かれるわけでもありません。そういった『等身大の主人公』が楽しめる点も、物語の魅力の一つだと感じます。
また、物語の軸である『ダンジョン探索』に至る理由も非常にシンプルでわかりやすく、『無職になったためお金が必要で、再就職までの繋ぎとしてダンジョンを探索して日銭を稼ぐ』という誰もが自然に納得できる導入部分が見事です。探索中に何度も死にかけるものの、主人公田中に悲壮感はなく、それ自体も軽い語り口で描かれますが、他者視点の『幕間』を挟むことで物語の深みを醸成することに成功しています。
地に足をつけた現実的な側面と非日常が複雑に絡み合い、それがあえて平坦な文章で語られている――そんな「信頼できない語り手・田中」による本文と他者視点の幕間のリズム感が心地よく、世界の謎について伏線回収され始めた瞬間の爽快感が見事です。
このような主人公の個性と世界観、構成の妙が光る作品です。