【3/25発売「犬勇」RTキャンペーン】「草介の部屋でこづみがエロ本を探す話」公開!

現在RTキャンペーン開催中「犬と勇者は飾らない」より、

お待たせしました……!

まさかの一晩で達成となりました、

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☆第1弾:200RT達成
SS「こづみが草介の部屋でエロ本を探す話」公開!

※キャンペーン詳細はコチラ!

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上記のあまなっとう先生書き下ろしSSを公開です!

 

【注意】
・本SSは「犬と勇者は飾らない1」収録内容のネタバレを微妙に含みます。
WEB版をご覧になっているかた以外はご注意ください。
・本SSは一部キャラのイメージを発売前から損なう可能性が御座います。
WEB版をご覧になっているかた以外はご注意ください。

 

それではどうぞ!

 

 

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「草介の部屋でこづみがエロ本を探す話」

 作:あまなっとう

 8月の下旬、識神こづみは佐藤草介の家を訪れていた。
 夏も終わりに差し掛かり、蝉の数も目に見えて減ってきた頃の話だ。
 直接会いに来た理由は単純明快。
 今日こそ彼が隠している秘密を聞き出す為だ。

 佐藤草介がこの街に帰って来て以来、彼の身に何らかの異変が起こっているのは瞭然としていた。元より彼はこの四年半魔術捜査に一切引っ掛からなかったのだ。かなり高い確率で魔術的な関わりがあると見て良い状況だった。

 佐藤草介には人に言えない何かがあって、それを隠している。
 それは明らかだったにせよ、まさかひょっとこの面を被って魔術学院の実習に参加して来るなど、一体誰が予想出来ただろうか。

 彼がいつどういう経緯で魔法を覚えたのかは知らないが、ティアから借りた提出用の戦闘映像を見せてもらった限りでは、非常に強力な力を行使していた。本人は見抜かれている自覚はなかった様子だったが、声や体格、髪型からしてあれは間違いなく草介だった。

 魔術を使えるということは、失踪した際、魔術的な何かに巻き込まれたのだろう。あの日催された識神こづみの誕生日には元老院からの出席者も何人か含まれていた。尤も彼らが一般人に対して手を出すというのは、因果関係から見て限りなく有り得ない話だが、草介の現状を鑑みる限りでは、彼らに何かされた可能性ぐらいしか残っていない。

 とにかく、彼に関しては分からないことばかりだ。

 失踪そのものの事情を話したくないのならそれでも良い。
 だが草介自身が魔術を使うとなれば話は別だ。
 そこまで深く魔術に関わっているのなら、やはり一度詳しく話す必要がある。

 それに、今回の演習は何かが妙だ。
 この霊地の管理者の一族として、今後異常事態が起こらないように強引にでも彼の素性を把握しておかなければ対応がし辛くなる。
 
 アポイント無しで来なければ恐らく草介はまた都合をつけてこづみとの接触を避けようとしただろう。だから不躾な話ではあるが、こうしてなんの断りも無しに直接家へと訪問させてもらうことにしたのだ。

 ーーーだがそれでも、彼の部屋で待機することになったのは、正直かなり予想外だった。

 家のインターホンを鳴らした際、応対したのは草介の祖母である佐藤柳子夫人であった。訪問した事情が事情なのでもう少し怪訝そうな顔をされると思ったが、彼女は嬉々としてこづみを家に迎え入れ、そのままこの部屋に通された。

 草介が帰って来るまでおよそ二時間程らしい。
 その間、こづみはこの六畳の私室で座して待つことになる。

 居心地が悪い訳ではないが、見知った顔の男子の部屋に一人というのは、妙に落ち着かない。昔はなんの考えもなしに家に遊びに来ていたものだが…。

「………………」

 薫風に煽られた風鈴が静かに鳴く音だけが聞こえる。
 そこでふと、去り際に柳子夫人が残していった言葉を思い出した。

『草介帰るまでもう少しかかると思うから、暇だったら部屋漁ってみて。めっちゃ面白いわよ』

 真意を測りかねる台詞だった。
 面白いの定義にもよるがいまいち言葉の意味がピンと来ない。草介の部屋を漁ったとして、何がどう面白いと言うのだろうか。

「…………ん」

 緊張のせいか、無意識に正座で待っていたこづみは一度脚を崩した。時計を見るとまだ10分も経過していない。

 草介が帰って来たとして、どういう順序で話を進めるべきか。いっそ出来るだけ前置きは短くして、直球に聞いてしまおうか。昨日のあれはなんですか、と。

「………………」

 予想はしていたが、流石に暇だ。せめて在宅の時間帯ぐらい確認していた方が良かっただろうか。それはそれで警戒される気もするが。

 そもそも草介は何故こづみとの接触を避けようとするのか。
 そんなにもこづみから距離を置きたいのか。

 本当はただこうして、会って話したいだけなのに。

「………………」

 ところで、だ。
 先ほどから座している座布団に違和感がある。
 硬い何かが下敷きになっている感覚は、恐らくこづみの気のせいではないだろう。

 立ち上がり、座布団の裏をまさぐる。
 いつもゆっくりと座っているが、物によっては壊している可能性もある。そう考えると一気に不安が押し寄せて来た。何があるのかは知らないが、一度確認した方が良いだろう。

 こづみが手に取っていたのは一つの雑誌。
 何だと思って表紙を見てみると、女性の裸体らしきものが写っていた。

「え?」

 反射的に手放す。
 なまじ勢い付いたまま手を離れた雑誌は畳の上を何度か跳ねて、入り口の近くでピタリと止まった。

「………………」

 何だ、今のは。
 グラビアか、何かだろうか。
 そう、本屋でよく見る、週刊雑誌などの表紙を飾っている――というより、今のはあれだった。
 男子の部屋にある、あれだ。
 こづみとてそういう知識が無いわけではない。
 治癒術を行使する以上、人体には精通しているつもりだ。
 今のはそう、あれだ。
 よく分からないが、多分あれだ。
 あれなのだ。

 彼はいつも飄々としているので警戒していなかったが、よくよく考えれば、この部屋にそういうものがあっても何ら不思議ではない。
 何故目の当たりにするまでその可能性に気付かなかった。
 いや、あって然るべきなのだ。
 こんなに無造作に置いてあるということは、探せばもっと出て来ると思った方が良いだろう。

 こづみは神妙な顔で、しかし半ば放心しながら、佐藤柳子の言葉を脳内で反芻していた。

『部屋漁ったらめっちゃ面白いわよ』
「…………」
『部屋漁ったらめっちゃ面白いわよ』
「…………」
『部屋漁ったらめっちゃ面白いわよ』
「…………」

 ぜんぜん面白くない。
 本当に面白いものが出て来るとは思わなかったが、想像した100倍くらい面白くない。

 いや、そんなことはどうでもいい。
 今はあの本を出来るだけ速やかに片付けなければならない。まだ数時間あるとはいえ、草介が予定より早く戻って来る可能性も十分にあり得る。この場面で彼と鉢合わせた場合、どうなるか見当もつかない。

「ふー……」

 内容を確認するのは彼のプライバシーに関わる。
 ここは幼馴染のよしみで早急に処理し、こづみ自身この事実は記憶の彼方へと葬り去るのが吉だろう。

 目を閉じ、膝立ちのまま例の雑誌があった場所へとゆっくりと手を伸ばす。指先が触れたのを確認して、そっとこちらへと引き寄せる。

 そこでふと、こづみの手が止まった。

(……これ、どういう内容なんだろ)

 視界に入れたのは本当に一瞬だったので表紙から中身を推察することすら出来ない。複数人の女性が、なんか、こう、並んで立っていたような気がするようなしないような、そんな朧げな認識だ。

 こづみ自身、そういうのに別段興味がない訳ではない。
 疎いことには違いないが、疎いからこそというのもある。
 ここで草介の趣味趣向を覗き見たとして、罰は当たらないだろう。

『いけません、こづみ』

 そこでふと、こづみの脳裏に白いキトンに包まれた識神こづみが現れた。頭上には天輪、背には翼を生やした、いわゆる典型的な天使の様相をしたこづみが。
 もっとざっくり言ってしまえば、こづみの良心が心の中で囁き始めたのだ。

『連絡も無しに部屋に上がり込んだのはこづみ、貴女です。ここは大人しく退くべきではありませんか?』
「た、確かに……」

 無造作にあんなものが置かれていたのは、こづみが勝手に訪れたのも原因だ。こづみとて部屋に見られたくないもののひとつやふたつあるだろう。来ると言えば、彼も体裁を整えることぐらいはした筈。

 ここで彼のセンシティブな部分に触れるのはフェアではない。これは反則。そう、これは反則だ。

『果たしてそうでしょうか?』

 天使の反対側から、今度は黒いワンピースを着た識神こづみが現れた。背に蝙蝠の羽を生やし、やや悪そうな笑みを浮かべた彼女は、こづみの中の悪魔に他ならない。

『ここで彼の趣味趣向を知れば好みがはっきりと分かるのではありませんか?』

「うっ……」

 正直その発想は無かった。
 確かに彼の好みが分かれば――いや、何を考えているんだ自分は。彼の部屋に来て頭がおかしくなってしまったとでも言うのだろうか。

『こづみ。悪魔の囁きに耳を貸してはなりません。これは見なかったことにし、静かに草くんを待つのです』
「そ、そうです……よね」
『ええ。早くその……その……あれを……適当な場所に隠してしまいなさい』
「はい……」

 それが最善だ。
 最悪なのはこの状況を彼に見られること。
 余計なことは考えず、早くこれを処理した方がいい。

『では、考え方を変えましょう。仮に表紙の女性が私に酷似していたら、どうしますか?』
「え?」
『え?』

 こづみとこづみの中の天使が一様に振り向く。
 こづみの中の悪魔は澄ました顔のまま続けた。

『表紙の女性が私の特徴と一致していれば、こんな面倒なことせずとも問題は解決出来る筈です。彼の意中の人間が私だと確信出来れば、内気な貴女でも自信がつくでしょう。そこから彼を絆せば、今回の件だけでなく、半年前からの根本的な問題も解決出来ます』
「そ、そんな上手い話ありませんよ……」

 ロジックも何もない無茶苦茶な話だ。
 ただ彼の好みを知りたいだけの方便、いや方便にすらなっていない。

「ね、ねえ、天使さん?」
『一理あります』
「な、ないですよ! 何言ってるんですか!?」

 感心したように頷く天使を、こづみは即座に否定した。
 いくらなんでも良心が折れるのが早過ぎやしないだろうか。

『安心しなさいこづみ。過去貴女が告白されたことを忘れましたか? 草くんが識神こづみを引き摺っている可能性は、必ずしもゼロではないのです』
『成る程。悪魔さん、頭良いですね』
「良くないですよしっかりして下さい天使さん!」

 なんの疑問も持たずに受け入れようとする天使の肩を揺するも、彼女は真顔のまま首をガクガクと振るだけだった。

『取り敢えず見ましょう』
『そうですね。早く目を開けるのですこづみ』
「う、うぅ〜〜〜!」

 こづみの中の天使と悪魔が成人誌を見ろと捲し立ててくる。
 ちょっと直視し難い現実だ。
 だが、確かに悪魔の言うことにも少し、ほんの少し納得出来る部分はある。

 思えば草介は以前こづみに告白しているのだ。
 確かに、そっちの趣味を持っていることもあるだろう。
 例えばそう、線の細い女性をタイプにしていることも十分にあり得るのだ。

 だとすれば確かに、こづみは自信がつくかも知れない。

 そっと目を開ける。
 表紙には巨乳の欧米人が三人並んで立っており、タイトル欄には大きくこう書かれていた。

『爆乳トライアングル〜100%増量中〜』

 狂っている。
 この世界は狂っている。

   ◇   ◇   ◇

『きゃあああああああああこの人胸大きいぃいいいいいいいッ!!』

 三人で同時に表紙を見た瞬間、絶叫と共に天使の方のこづみが壁に叩き付けられ、そのまま地に伏し、ピクリとも動かなくなった。

「……え? なんですかこれ?」
『どうやらショックで気絶したようです』
「気絶!? 私の良心気絶したんですか!?』
『それより当てが外れたようですね』

 悪魔のこづみが険しい顔で成人誌を手に取って、ぱんと軽くちゃぶ台に叩きつける。

『ちょっと斜め上を攻めて来ましたね。まさか洋モノとは……』

 確かにこづみの外見と1ミリも一致していない。
 似ても似つかないとはこの事だろう。

「も、もうやめましょう悪魔さん。流石にこれ以上は……」
『いえ、まだです』

 力なく訴えるこづみに対して、悪魔は渋面のままかぶりを振った。

『まだブツはある筈です。この本以外は全てスレンダーなアレの可能性は大いにあります』

 そう言うと悪魔は身をかがめ、なめくじのような奇妙な動きでベッドの中へと身を滑らせた。ごそごそ、となにかを漁るような音がここまで聞こえる。

 どうでもいいが、彼女はこづみのイメージ上の存在なのに何故現実に影響を及ぼせるのだろうか。

『うーん……。流石にこんなベタな場所には……あ、ありましたよ、こづみ』
「あ、悪魔さんいけません。草くんの部屋をこれ以上勝手に漁るなんて……」
『もう細かいことは気にしなくて結構。私もあそこまで啖呵を切った以上引き下がれません。当たりが出るまで引き続けます』

 この場合の当たりとはこづみ似の成人誌が出ることを指しているのだろうか、と言う疑問があったが最早こづみ本人には問い質す元気すらなかった。

 悪魔がベッド下から取り出したのはアルミ製の箱だ。
 中に何が入っているかなど、この流れからすれば想像に難くない。

『重さからして結構入ってますね。開けなさいこづみ』
「な、なんでそこだけ私にやらせるんですか!?」

 持って来るだけ持って来ておいて開封の作業だけ本人にやらせるのはいくらなんでも卑怯じゃないだろうか。

『いけません、こづみ』

 ふと、清らかな声がこづみの鼓膜を震わせる。
 先ほど吹っ飛んでる気絶した天使が隣で祈るようなポーズを取ったまま正座していた。

「お、起きたんですか天使さん」
『ええ。先程はお見苦しいところを見せましたね』

 取り澄ました顔をするには些か滑稽過ぎたがこづみはそれに触れない方針で話を進めることにした。

『こづみ、そこから先は本当に故意に彼のプライベートを覗き見ることになります。おいそれと踏み込むものではありません』
「そ、そうですよ! そうですよね!」

 勢いに流されそうになったが普通に考えてこんなこと許されて良い訳がない。即刻やめるべきだ。

「ほ、ほら! 天使さんもこう言ってるじゃありませんか!」

『果たしてそうでしょうか? 草くんの、もとい年頃の男子の趣向が何なのか、後学の為にも知っておいて損は無いはずです。さっきの一冊だけでは判断しかねます』

「そ、そんなの知ってどうするんですか!? これ以上私は罪を重ねるつもりはありませんよ!」

『私の意見はあくまで学術的見地からのものです』

「無理に小難しいこと言わないで下さいよ! ねえ天使さん!?」

『取り敢えず、一回開けませんか?』

「天使さんもう少し耐えて下さいよ! 本当に私の良心なんですか!?」

 こづみの必死の抗議虚しく、天使と悪魔はまた同時に捲し立てて来た。

『開けなさい、こづみ』
『開けるのですこづみ。希望というものは時にリスクを負わなければ手に入れられないのです』
「う、うぅ〜〜〜!」

 何故一番業の深い行為だけ押し付けて来るのか。
 天使に至っては存在の意義が分からなくなってきた。

「も、もうどうなっても知りませんからね!」

 意を決してこづみが箱の蓋を開ける。
 中に入っていたのは案の定数冊の成人誌。
 一番上の本の表紙には巨乳の金髪女性が仁王立ちしており、タイトルにはただ端的に『爆乳特集』とだけ書かれていた。

 次の瞬間、天使は大の字で天井に叩き付けられていた。

『こ、この人も胸おっきぃいいいいいいいッ!!』
「て、天使さーん!!」

 めきめきと鈍い音を立てて天使の五体が天井のクロスを貫き石膏ボードへとめり込んで行く。常軌を逸したリアクションに、こづみはこれが自分の心の一部なのかと戦慄すら覚える。

『な、何故……ですか……草くん……。何故、識神こづみの良心である私が、部屋の天井にめり込まなければいけないんですか?』
「むしろ今どういう理屈で天井にめり込んでるんですか!?」

 そこでこづみは一度息を整えることにした。
 立て続けに大声を出したので喉がカラカラだ。
 柳子夫人に出して貰ったお茶で喉を湿らせて、ふうと息をつく。

「……悪魔さん。天使さんの方もあの様子ですし、そろそろやめにしましょう。もう、十分気が済んだでしょう?」

『ねえこづみ、この本ここで燃やしません?』

「二人して変なことばかり言わないで下さいよ!」

 天使は天井にめり込むし悪魔は放火を提案するしもう収集が付かない。もう無理やりにでも場を納めた方がいいのではないだろうか。

『多分これ、下の方もジャンル同じですよ。おっぱい大好き佐藤くんですよあの人』
「そ、そんなことないですよ! 一冊くらい小柄な人のがありますよ! 多分! 絶対!」
『そもそも、こんなものばかり見ていたら、彼の就職活動にに差し支えるのではないでしょうか?』

「そ、そんなわけ……」

 どうだろう。
 悪影響、あるのだろうか。
 その辺はちょっとよく分からない。
 いや、悪魔の言う通り仮に悪影響があったとしても、無断でこの本をどうこうする権利はこづみにはない。無論、こうして部屋を漁る権利すらも。

『これらは健全な生活には不要。今後の妨げになる可能性が非常に高いと断言せざるを得ません。すぐに燃やすべきです』

「だ、ダメですよ!どんな理由があっても火を付けるなんて悪人のやることです!」

『早く火を放ちなさい』
「実行したら私ただの放火魔じゃないですか! 嫌ですよ絶対! ていうかなんであくまで私にやらせようとするんですか悪魔さん!」
『悪魔だけに?』
「うるさいですよ!!」
『それはそうと、草くんが他の人に取られても良いんですか? ここで彼の性癖を矯正しておかないと後で痛い目を見ますよ』
「うっ……!」

 そういう、結論になってしまうんだろうか。
 いや、そんなはずはない。
 あくまでこれは恋愛対象とは別物、の筈だ。
 実際における男女の付き合いというものは、もっと清らかで尊いもののはず。

 そういう意見ならば天使の方が弁が立つだろうと思い、こづみは未だ天井に背中を貼り付ける天使に向けて援護を求めた。

「て、天使さんも何か言ってやって下さい!」
『豊胸という言葉をご存知ですか?』
「知りませんよ何言ってるんですか!?」

 もう天使(これ)は当てにならない。
 というより天使の方の知能が著しく低いのは人間としてどうなのだろうか。

「悪魔さん、そろそろ草くんも戻って来るかもしれませんし本当にもうあーーーーーーーーッ!!?!」

 視線を上から下へと戻すと、そこにはライターで成人誌を燃やす悪魔の姿があった。

「な、ななな何やってるんですか!?」
『この後全てのエロ本を貧乳ものにすげ替える作戦です』
「て、天使さん! 黙って見てないで悪魔さんを一緒に止めて下さい!」
『豊胸という言葉をご存知ですか?』
「さっき知らないって言ったじゃないですかもう!!」

 こうなれば力付くにでも止めるしかない。
 正直、心のどこかで今の状況がおかしいという疑問は持ち続けていたが、今のこづみはそれを気にするほどの余裕はなかった。

『待ちなさい悪魔さん』

 しゅた、と。
 天井から舞い降りた天使が、悪魔の眼前へと立ちはだかる。
 流石の彼女も悪魔の蛮行を見咎めたらしい。
 凛とした横顔には絶対に止めるという強い意志が表れていた。

『いくら草くんの為とはあえ、流石にその悪行は見過ごせません。悪魔さん、貴女はここで今私が成敗してあげます』

『この箱やっぱり全て巨乳ものしかないですね。残念です』

『うわぁああああああああああああああああああああああああッ!!!』

 そして遂に、悪魔の一言で天使は窓を突き破り空の彼方へと消えていってしまった。多分、あれは自分に関係のない何かなんだろう。そう思い込むことで、こづみはひとまず心の平静を保った。

『さあて邪魔者もいなくなったことですし、どんどん燃やしましょう』

「何調子付いてるんですか! もう本当に怒りますよ悪魔さん! 私の人生の中で今一番不毛な時間ですよこれ!」

 こづみが悪魔の肩にすがりつくも、凄まじい体幹なのかビクともしない。天使と比べて力の差が天地だ。

 と、その時、ポケットの中の携帯が鳴った。
 まさか草介からの連絡だろうか?
 メール差出人は『天使』とだけ綴られていた。

〝今、シンガポールにいます〟

「こ、国外まで飛んでる!?」 

 幾らなんでも飛びすぎではないだろうか。
 天使が吹っ飛んだ際に窓ガラスも粉々になったままだし、こづみ自身一体何が起こっているのか見当もつかない。

「も、もういい加減にーーー」

 流石のこづみも怒りが頂点に達しようとしたそのとき、不意に部屋の襖が開いた。

「すまん、待たせ……」

 現れたのは草介だった。
 何が起こっているのか分からないのだろう。
 草介は入って来たままの姿勢で硬直している。
 瞬間、こづみの額から冷や汗が噴き出し、心臓が痛い程に跳ねた。

「そ、草くん…!?」

 いつの間にか悪魔は消えており、こづみの手にはライターと燃え盛る成人誌だけが握られている。

「な、何やってんだお前……」
「ち、違ッーーー」
「違わないだろこら! こらお前! 何やってんだお前こら!」
「違ッ……違うんですッ!」
「なんで俺のエロ本燃やしてるんだお前こら!」
「違うんです! 聞いて下さい草くん!」

 考えがまとまらない。
 聞いてた時間もよりも随分と早い帰宅だ。
 こづみが目をぐるぐると回しながら弁解を試みるも、とても平静など取り繕っていられるような状況ではなかった。

「私じゃないんです! 私の中の天使と悪魔が勝手に!」
「どういうことだ?」
「私の中にいる天使と悪魔が勝手にやっただけなんです! だから私は! 私は悪くないんです私は! 信じて下さい草くん!」
「お前みたいな変態は警察に突き出してやる!!」
「い、いやーーー!!」

 こうして識神こづみは最寄りの警察署へと連行され御用となった。この一件は極めて悪質な刑事事件として処理され、こづみは拘置所で過ごすことを余儀なくされる。後日公判が開かれる事となった。

 そして判決の日。

「では裁判長、判決を」
「懲役七億年です」
「いやぁああああああッ!! 懲役七億年いやあぁあああああああああああああッ!!」

 こづみの甲高い悲鳴は傍聴席を越え、法定の敷地まで響いたという。

◇   ◇   ◇

「はっ…!?」

 目が覚めたとき、部屋には西日が差し込んでいた。

「夢……」

 どうやら草介を待っているうちに転寝してしまったらしい。こづみ自身、知らないうちに日頃の疲れが溜まっていたのだろうか。

「うーん……」

 誰も見ていないのをいいことに、背を伸ばしながら一つ欠伸を漏らす。時計を見ると、先ほどよりも30分ほど針が進んでいた。

 何か酷い夢を見ていた気がする。
 あまり覚えていないが、高熱の時によく見る意味不明な悪夢を。

「………………」

 こづみは目頭を指で揉みながら、そういえば最近あまり寝てなかったことを思い出す。

 今夜行われる狩りは今回の任務の大一番。
 まずは草介の件をじっくりと話して、目先の問題を解決しなければいけない。

 それにしても。
 先ほどから敷いてる座布団に何やら違和感がある。
 こづみが一体何だろうとめくってみると、そこには成人誌が置かれていた。

「え?」
「こらー! こづみ! 何やってんだお前!」
「え!? 草くん!? 違ッ……!?」
「何やってんだお前! 警察に突き出してやる!!」
「い、いやぁ! 話を聞いて下さい草くん!」
「裁判長、判決を」
「死刑」
「いやぁあああああああ!! 死刑いやぁあああああああ!!」

 このあと2回ほど同じことを繰り返した後、ようやく本当に目を覚ましたこづみであった。

 

〈了〉

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以上!
【200RT達成】のSSでした!

 

 

「犬勇」RTキャンペーンは引き続き実施中!

次の目標は【500RT】

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☆第2弾:500RT達成
⇒書き下ろしSS第2弾公開 & PV作成決定

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オーバーラップ文庫
犬と勇者は飾らない1 
著:あまなっとう イラスト:ヤスダスズヒト

佐藤草介18歳、無職、小卒、そして――最強の勇者!!
【あらすじ】
中1の夏、幼馴染に振られたその日に勇者として異世界へ召喚され、魔王を倒して数年ぶりに帰還した佐藤草介――18歳、小卒、老け顔。どこにも就職できずバイト生活を送る草介は、幼馴染との距離感に悩んだり巨乳な同僚(JK)と仲良くなったりと穏やかな日々を送っていた。しかしそんなある夜、地球には存在しないと思っていた“魔術師”と“魔物”の戦闘に遭遇! 魔物をあっさり倒した草介だったが、その力を見込まれて魔物討伐に巻き込まれることになり……!?
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