【白き煌王姫と異能魔導小隊】重版御礼SS連載☆第4回

2014/1/19 未分類

こんばんは。草Pです。
先日緊急重版をした「白き煌王姫と異能魔導小隊」
重版出来を知った桐生先生がエピソードゼロ的なSSを書いてくださいました!

1月16日から5日間に渡って連載です!
本日は第4回。これまでの話はコチラ⇒【第1回】【第2回】【第3回】

既に読んでくださった方はもちろんのこと、まだ読んでない!という方にも作品の雰囲気が伝わる内容になっておりますので、是非ご一読ください!

★☆第4回☆★
「…………」
茂みの中、エイルは身を潜めていた。呼吸一つにも神経を行き届かせ、完全に気配を消す――今、自分の目の前には五匹の灰牙獣(ドルグ)がいる。
まだ日暮れ前だと言うのに活動的だ――エイルは心の中で舌を打つ。だが、この光景は同時にある確信を得るものでもあった。
普段は集まって動くことのないこいつらがこれだけいるということは――黒灰牙王(アシュドルグ)の側近か何かだ、エイルはそう判断した。
茂みで群れの通過をやり過ごすと、静かに立ち上がる。
「ふぅ……さすがに一度に五匹の相手は無理だからな。けど、今夜はいける気がする。やっぱりこの辺りが黒灰牙王の通り道だ」
エイルは何度もこの森に足を運び、灰牙獣と戦いながら剣の腕を磨いた。そして地道に足跡や獲物を食い散らかした痕跡などから、黒灰牙王の行動範囲を予測していたのだ。
この広大な森全体が黒灰牙王の縄張りとなっているのだが、その行動範囲は意外と狭い。
「完全に夜になっちまう前にあと三カ所くらいは仕掛けたいからな……急ぐか」
腰裏の雑嚢から携帯用のスコップを取り出し、組み立てる。周囲への警戒を怠ることなく、エイルは穴を掘り始める。
森の土は軟らかく掘りやすいということもあり、エイルはあっと言う間に自分の背丈よりも深い穴を掘り上げた。これも、ここ五年の間に何度もやってきたことだ。
「一度でも見ればあいつの大きさもわかるんだけどな……。五年前のあの日の感じだと……ま、これだけの深さがあれば十分だろ」
と――自ら掘った穴から上半身を這い上げた時だった。
「なっ!?」
エイルの目に入ったのは灰牙獣の背中――大きさは自分よりも二回りほど大きい、標準的なものだ。その灰牙獣はすぐにエイルに気付き振り返った。
「ガァアアア!」
灰牙獣はエイルを見るなり敵と判断。咆吼を上げて威嚇する。
「やばい――くそっ!」
まだ穴から体を出し切っていないエイルは圧倒的に不利――エイルは持っていたスコップを灰牙獣に投げ付ける!
「ガゥッ!」
スコップは灰牙獣にぶつかることなく、爪の一撃で粉砕される。だが、その間にエイルは穴から這い出し剣を構えていた。
「あーちくしょう! あのスコップ結構高いんだぞ! 命には替えられないけどな」
「グウゥゥウ……」
剣を構えるエイルと灰牙獣が対峙。張り詰めた空気の中、エイルは目線を逸らすことなく周囲の様子を探る。
「……囲まれてる気配はない。こいつ一匹だな。それなら――!」
エイルは剣を握り直すと、地面と水平に構える。それを見た灰牙獣は大きく両手を広げると、エイルへと突進して来た。
見かけによらない速さ――そしてこの巨躯から繰り出される爪は一撃でも受ければ致命傷になる。まして、軽装のエイルなどでは掠った程度でも腕などを切断されかねない。
だがエイルは動こうとせず、剣を構えている。
「ガァーッ!」
灰牙獣が腕を振り下ろした瞬間にエイルは動いた。一度腰を落としてから、剣を振り上げて爪を弾く! そして振り上げた剣を重みに任せて振り下ろす。その一撃は灰牙獣の手首を斬り跳ばす一撃となった!
「グギャ!?」
逃げたり避けるより、振り下ろしてくる爪をまずは無力化してしまう――何度も戦って来た中でエイルが見つけた、有効な戦い方がこれだ。
手首を失い混乱する灰牙獣目がけ、エイルは走る!
「うぉおおああああーっ!」
灰牙獣が一瞬戸惑う――エイルにはその一瞬で十分だった。大剣に体重を乗せた一撃が灰牙獣の喉に突き刺さる!
「ゴ――ブッ……」
気道を潰された灰牙獣はあえなく倒れ、動かなくなった。
「ふぅ……いきなり出てくるとびっくりするな……。あーあ、あれじゃスコップはダメか……」
剣を納め、スコップの残骸を拾うも、ここでは直せそうもない。
「とりあえずコイツを片付けないと……。こんなところに置いてたらせっかくの罠に違うのがかかっちまいそうだしな――」
エイルは倒した灰牙獣を引きずり、茂みへと潜らせた。本当は埋めてしまいたいのだが、スコップがこの有様ではもう使えない。
「落とし穴はもう作れないか……。仕方ない、今使えるので勝負するしかないな。よし、それじゃ……」
エイルはポケットからコインを取り出す。くすんだ、古い金貨だ。
「表ならこの罠に黒灰牙王が落ちる、裏なら落ちない――」
言い、コインを弾く。それは高く上がり、エイルの手の平に表を上にして落ちた。
「良しっ! やっぱり今日はついてる! 落とし穴を仕掛けたら調べてきた範囲の探索に出るか。……待ってろよ黒灰牙王……今日こそ、今日こそ仇を取ってやる!」
ここで黒灰牙王を倒して仇討ちができれば、魔導が使えない自分でも災害獣を倒せる証明なる――俺だって戦えるってことを……ここで!
エイルはそう自分に言いながら、罠を仕上げていった。

★☆第5回に続く……!☆★